大規模修繕に関するお話

単純に考えれば、もしもこの世にたばこが存在しなければ、それだけで、がんになる人が三割減ることになるわけです。
 私は、市民の方々を対象に、がんの予防について講演を頼まれることがあります。
そのときにはかならず、聴衆の皆さんに、次のような質問をすることにしています。
 「たばこ、食事、遺伝、環境汚染、ストレスという五つの要因のなかで、がんの原因として 一番影響が大きいと思うものを一つだけ選んで、手を挙げてください」 聴衆の方々の反応として、いつも共通しているのは、「食事」に于を挙げる人が一番多いことです。
たいてい半分以上の人が、「食事」に于を挙げます。
残りの四つの要因については、どれもだいたい同じくらいの人数の人が、パラパラと手を挙げます。
「たばこ」に手を挙げる人は、「食事」に比べると、圧倒的に少数です。
 これはなにを意味しているのでしょうか。
 専門家が行った推計では、たばこと食事ががんの二大要因で、両者の寄与はどちらも三〇対策からパーセントと同じくらいであることを、第二章で紹介しました。
ところが、市民の人たちは、がん予防に対する食事の重要性についてはよく理解しているけれども、たばこの影響については、食事ほど大きくは考えていないということでしょう。
 専門家の推計と市民の理解とのあいだの食い違いには、いくつか理由が考えられます。
まず第一に、マスメディアががん予防を話題にするときには、食べ物や栄養素の効果を取り上げることが一番多いことです。
それに比べて、たばこの害が正面から取り上げられることは、あまりありません。
こうしたメディア報道の偏りが、がん予防に対するたばこの重要性を、一般の人たちが過小評価するI因になっています。
たばこの害は肺がんだけではないもう一つ考えられるのは、「たばこの害」というと、「肺がん」のことだけがイメージされる傾向かおることです。
 「たばこを吸うと、肺がんになる危険が高くなるのは常識だ。
けれども食べ物の場合は、肺がんに限らず、いろいろながんの発生に関わっているだろう。
だから、がんの原因として一番重要なものを一つだけ選ぶとすれば、たばこではなく食事になるのではないか」 私の質問に対して、聴衆の方々の多くは、おそらくこのように考えているのでしょう。
 たしかに、日本人のがん死亡に占める肺がんの割合は、男性ではがん全体の二I・八パーセント(図表1’2、コーページ)、女性ではコー・六パーセント(図表lj3、コニページ)、男女合わせると一八・ニパーセント程度です。
肺がんの多くはたばこが原因で生じると考えられていますが(男性では肺がん全体の約七割、女性では約二割)、だとしても、それだけでは、「がんの三〇パーセントはたばこが原因」という先の推計とは一致しません。
 この矛盾を、どう考えればよいのでしょうか。
 それは、次の事実で説明できます。
 「たばこの害は、肺がんに限ったものではない。
肺がん以外のがんに対しても、たばこが悪影響をおよぼすことが分かっている」 そのため、肺がん以外のがんに対する影響も足し合わせると、たばこががん全体の三〇パーセントの原因になるという推計が成り立つことになるわけです。
 たとえば、第二章で紹介した世界がん研究基金の報告書(図表2‐I、三八入二九ページ)は、たばことがんの関係について、次のように判定しています。
e「確実」にリスクを上げる……口腔がん、食道がん、肺がん、眸臓がん、子宮頚がん対策からがん予防、まずはたばこ@「おそらく確実」にリスクを上げる……自{咽頭がん、喉頭がん、膀胱がん・リスクを上げる「可能性かおる」……大腸がん、腎臓がん たばこの煙のなかには、数多くの発がん物質や有害物質が含まれています。
たばこの煙を吸い込むと、口(口腔)や鼻(鼻咽頭)から、喉(喉頭)を通って、肺に入ります。
たばこの煙の一部は、唾液に溶けて飲み込まれ、食道を通ります。
たばこの煙に含まれる化学物質は、その後、体内で代謝され、体外に排泄されるために、尿のなかにでてきて膀胱にためられます。
このように、肺に限らず、たばこの煙が体内に入ってから体外にでていくまでに通る、さまざまな部位のがんのリスクが高くなるのです。
 たばこを吸う人では、吸わない人と比べて、がんで死亡する確率が部位・臓器別でどれだけ高くなるか、日本人で調べた研究があります(図表71I。
男性の場合、喉頭がんのリスクは三二・五倍、肺がんは四・四五倍、咽頭がんは三・二九倍、等々という結果になっています。
「たばこの害は、肺がんに限らない」ことが、よく分かるデータではないかと思います。
 ここまで、「がんの原因の三割はたばこ、三割は食事」という推計に基づいて考えてきました。
けれども、たばこを吸う人と、吸わない人では、食事をはじめとするたばこ以外の要因の役割が、まったく違ってくる可能性があります。
英国の研究者がこの点に注目して、がんの原因となる要因別の寄与率を、喫煙者と非喫煙者に分けて推計し、二〇〇一年(平成一三年)五月一七日号の『ネイチャー』に発表しています(図表7−2)。
 この表は、上部にある要因を取り除いたら、残りのがんをどれだけ予防できるかを示しています。
たとえば、喫煙者のがんは、喫煙という要因を取り除けば六〇パーセントが予防でき、残りの四〇パーセントのうちニパーセントは、がんの原因になる感染症を除去すれば予防できることを意味しています。
 喫煙者については、がん全体の約七五パーセントが予防可能だけれども、このうち六〇パーセントがたばこによるものです。
残りの要因については、肥満(四パーセント)や食生活(四〜ニーバーセント)を含めても、影響が小さいという結果になっています。
このことから、推計を行った研究者は、喫煙者のがん予防に関して、禁煙以外の要因について頭を煩わせるのは「馬鹿げている」とまで述べています。
 一方、非喫煙者については、がん全体の約半分が予防可能で、食生活(一〇〜三〇八Iセント)、肥満(一〇パーセント)、感染症(五パーセント)などの影響が大きいとしています。
 「喫煙者では、がんの六割はたばこが原因になっている。
したがって、がん予防を望む喫煙者は、まずなによりも禁煙を優先すべきである。
禁煙以外の要因について頭を悩ませるのは、馬鹿げている」 たばこを吸う人にとっては、いささかショッキングな結論かもしれません。
しかし、厳しいけれどもこれが現実なのです。
 「自分はどうしてもたばこがやめられない。
けれども、がんになるのも心配だ。
だから、たばこをやめられない分、せめて食事には気を遣うようにしている」 こんな話を耳にすることがときどきあります。
たしかに、自分のできることから生活習慣を変えていくことは大切です。
少なくとも、たばこを吸い続けたままなにもしないでいるよりは意味があるでしょう。
けれども、食生活などに気をつけても、たばこの害を打ち消すほどの効果は期待できないことを、この推計は警告しているのです。
 禁煙して何年でリスクが下がるか それでは、たとえば肺がんの場合、喫煙者がたばこをやめてからリスクが下がるまでには、どのくらいの時間が必要なのでしょうか。
この点を含めて検討を行った、国立がんセンターの研究を紹介しましょう。
この研究は、『国際がんジャーナル』の二〇〇二年(平成一四年)五月一〇日号に論文として報告されました。
このコホート研究は、北は岩手県二戸市から、南は沖縄県宮古島を含む、国内九地域に住む四〇〜六九歳の男女九万二八一四人を対象に行われました。

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